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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)5352号 判決

原告

川崎正人

被告

原冨士夫

ほか一名

主文

一  被告原冨士夫は、原告に対し、金五八八万五二四八円及びこれに対する平成二年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告東京海上火災保険株式会社は、原告に対し、金五八八万五二四八円及びこれに対する平成四年三月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余の被告らの各負担とする。

五  この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

1  被告原冨士夫は、原告に対し、金一億六八八九万一三三七円及びこれに対する平成二年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上火災保険株式会社は、原告に対し、金一億六八八九万一三三七円及びこれに対する平成四年三月一七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、普通貨物自動車と自動二輪車が衝突し、自動二輪車の運転者が後遺障害を負つた事故につき、自動二輪車の運転者が、普通貨物自動車の運転者に対し、自賠法三条に基づき、損害賠償請求をし、かつ、自動二輪車を被保険自動車とする自動車総合保険を締結していた保険会社に対し、無保険車傷害条項に基づき、保険金請求をした事案である。

一  争いのない事実等(証拠によつて認定する場合は証拠を摘示する。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年三月一七日午後八時二五分ごろ

(二) 場所 大阪市住之江区平林北二―九―一五一先

(三) 加害車両 被告原富士男(以下「被告原」という。)運転の普通貨物自動車(なにわ四〇ぬ五三九八、以下「被告車」という。)

(四) 被害車両 原告運転の自動二輪車(一なにわ、う七八一、以下「原告車」という。)

(五) 事故態様 被告車の右後輪付近に原告車が衝突した。

2  被告原の運行供用者性

被告原は、被告車の保有者である(被告原本人、被告東京海上火災保険株式会社の関係において)。

3  無保険車傷害保険

被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)は、損害保険事業を営む会社であるが、原告は、平成元年一一月二五日、被告保険会社との間で、左記の内容の自動車総合保険契約(PAP)を締結した(甲二、被告原の関係において)。

(一) 証券番号 五〇三七 一九六 三五八

(二) 被保険自動車 原告車

(三) 保険金額 対人賠償 無制限

自損事故 一四〇〇万円

無保険車傷害 二億円

対物賠償 三〇〇万円

搭乗者傷害 二〇〇万円

(四) 保険期間 平成元年一一月二五日から平成二年一一月二五日まで一年間

なお、右自動車総合保険の約款には、無保険車傷害条項があり、同条項によれば、無保険車(適用される任意の対人賠償保険がない自動車等)の所有、使用又は管理に起因して、身体が害されその直接の結果として後遺障害が生じることによつて生じる損害について、賠償義務者がある場合に限り、被告保険会社が原告に保険金(自賠責保険金等が支払われる場合はその超過額)を支払うことになつている(当裁判所に顕著な事実)。

そして、本件事故当時、被告車に適用される保険は自賠責保険のみで、任意の対人賠償保険はなかつた(弁論の全趣旨)。

4  原告の治療経過及び後遺障害

原告は、本件事故により、右下腿開放性骨折、左大腿部・左膝挫創、頭部外傷Ⅱ型、両肘・右膝・顔面挫創、腹部打撲の傷害を負い(甲八の1、乙二)、平成二年三月一七日から同年五月一七日まで矢木外科病院に入院(甲八の1、九の1)し、同年五月一八日から同年一二月二九日まで山本第三病院に入院し、同月三〇日から平成三年三月一二日まで同病院に通院し、同月一三日から同月二二日まで同病院に入院し、同月二三日から同年五月二二日まで同病院に通院した(同病院への実通院日数は五九日間、甲一〇の1)。

なお、原告は、平成二年五月一〇日に大阪府立病院に通院し、平成三年四月一三日に大阪市立大学医学部附属病院に通院した。

原告は、右治療に拘わらず、平成三年五月二二日、精神障害、症候性てんかん等の後遺障害を残したまま、症状固定した(甲三、四)。

そして、原告は、自賠責保険会社より、自賠法施行令二条別表第二級の後遺障害に該当すると認定された(弁論の全趣旨)。

以上により、原告の症状固定に至るまでの入院日数は二九八日間であり、実通院日数は六一日間である(甲一〇の1、一二の1、2、一三)。

原告は、右症状固定後も平成六年九月一二日まで山本第三病院に通院した(実通院日数一三二日間、甲一一の1、2)

5  損害のてん補

原告は、自賠責保険より、損害のてん補として、二三〇六万円の支払を受けた。

6  調停の不成立

原告は、平成四年三月一六日、被告保険会社に対し調停を申し立てたが、平成六年五月二六日不成立となつた。

二  争点

1  被告原の責任及び過失相殺

(被告らの主張)

本件事故は、停止していた被告車に原告車が高速度で衝突したという事故であるから、原告の一方的過失によるものであり、被告原には何らの過失もなく、被告車に構造上の欠陥も機能の障害もなかつたのであるから、被告原は、自賠法三条ただし書により、免責されるべきである。

(被告原の主張)

仮に、被告原に過失があるとしても、原告の過失が相当大きいので、少なくとも八割の過失相殺がなされるべきである。

(原告の主張)

被告車は、本件事故当時、停止していたのではなく、転回のため走行中であつたのであるから、被告原には後方不確認等の過失がある。

2  損害額

(原告の主張)

1 治療費 一一九万一九一四円

原告は、本件事故による治療費として、症状固定前は一一三万二三一四円、症状固定後は五万九六〇〇円を要した。

2 入院付添費 一六六万六〇五五円

原告は、職業付添費として六五万三五五五円を要したほか、近親者付添費として、一〇一万二五〇〇円(一日当たり四三〇〇円として二二五日分)を要した。

3  入院雑費 三八万八七〇〇円

一日当たり一三〇〇円として二九九日分

4  通院付添費 一四万七五〇〇円

一日当たり二五〇〇円として五九日分

5  逸失利益 一億三二三五万四〇〇〇円

原告は、本件事故当時満一七歳の男子であり、一八歳から六七歳までの四九年間就労可能であつたのに、本件事故によりその労働能力の一〇〇パーセントを喪失したから、平成六年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者全年齢平均賃金である年収五五七万二八〇〇円を基礎とし、一八歳から六七歳までの四九年間の中間利息のほか、一七歳から一八歳までの一年間の中間利息をホフマン方式により控除して、原告の逸失利益の本件事故時の現価を算定すると次のとおりとなる。

557万2800円×(24.702-0.952)=1億3235万4000円

6  傷害慰藉料 三〇〇万円

7  後遺障害慰藉料 一八五〇万円

8  将来の介護費 一九六〇万一六六八円

一日当たり二〇〇〇円として五八年間の介護費を、ホフマン方式により中間利息を控除して算定すると、次のとおりとなる。

2000円×365×26.8516=1960万1668円

9  禁治産宣告費用 一〇万一五〇〇円

10  弁護士費用 一五〇〇万円

以上を合計すると、一億九一九五万一三三七円となるが、これから前記自賠責保険から支払われた二三〇六万円を控除すると一億六八八九万一三三七円となる。

よつて、原告は、被告原に対し、自賠法三条に基づく損害賠償請求として、一億六八八九万一三三七円及びこれに対する不法行為後の平成二年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告東京海上に対し、自動車総合保険契約の無保険車傷害条項に基づく保険金請求として、一億六八八九万一三三七円及びこれに対する調停申立による請求の日の翌日の平成四年三月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告保険会社の主張)

1 逸失利益について

原告は、全年齢平均賃金を基礎収入とするが、一八歳の平均賃金を基礎収入とするべきである。

2 将来の介護費について

原告は、日常生活上身の回りのことはできるから、将来にわたる介護費は必要ない。

第三争点に対する判断

一  被告原の責任及び過失相殺

1  証拠(乙一の1、2、被告原本人)を総合すると次の事実が認められる。

本件事故現場は、市街地にある歩車道の区分のある東西に延びる直線道路(以下「本件道路」という。)であり、その状況は別紙図面のとおりであるが、路面は平坦でアスフアルトで舗装されており、本件事故当時、路面は乾燥し、街灯があるため夜でも明るくて見通しはよく、制限速度は時速五〇キロメートルに制限され、交通量は普通であつた(平成四年一月一三日の実況見分時の交通量は、五分間で三七台であつた。)。なお、別紙図面〈1〉(以下符号のみを示す。)の東側約一〇〇メートルの地点には信号機のある十字型交差点(以下「東側交差点」という。)があり、同交差点の本件道路を規制する信号(以下「信号」という。)が赤である間は、本件道路の西行車線の本件現場付近の交通量は少なくなる。

被告原は、本件事故当時、〈1〉の南側に位置する勤務先から帰宅するため、被告車でいつたん西行車線に出、中央分離帯のとぎれる〈3〉付近で転回して東行車線に出ようとし、〈1〉で東側交差点の信号が赤に変わり西行車線の交通量が少なくなるのを確認のうえ、被告車で〈1〉を出発した。被告原は、ヘツドライトを点け、まず西行車線の歩道よりの車線を五〇メートルほど走行した後、右に車線変更するため、右ウインカーを点滅させ、フエンダーミラーで後方を確認したところ後方には車両がなかつたので、西行車線の中央にある線を跨るようにして〈2〉よりもやや南側を通り(〈1〉から〈2〉までの距離は約七九メートルである。)、右ウインカーを点滅させたまま、徐々に速度を落とし、ルームミラーで後方を確認したところ、まだ後方から来る車両が見えなかつたので、ハンドルを右に切り、対向車線の走行車両のとぎれるのを待つため、〈3〉で停止した(〈2〉から〈3〉までの距離は約三〇メートルである。)。

すると、停止してから二秒ほどしたとき、被告車に原告車が衝突し、被告車は、その衝撃で〈4〉まで押し出され、右後輪のシヤフトも折れ曲がつてしまつた。なお、本件事故後、原告とともに自動二輪車で走行していた原告の友人は、原告車は時速一一〇か一二〇キロメートルぐらいで走行していたと述べた。

以上によれば、被告原は、東側交差点の信号が赤に変わるのを確認のうえ、〈1〉から〈3〉まで進行し、〈3〉で停止したが、〈3〉で停止するまでは後方から車両が来るのを全く確認できなかつたのに、〈3〉で停止して二秒したときに、原告車が被告車の後方から衝突してきたことになり、東側交差点は〈1〉の約一〇〇メートル東側にあり、〈1〉から〈3〉間での距離は約一〇九メートルであることに照らすと、原告車は、東側交差点付近から相当の高速度で〈3〉まで走行してきたと推認できる。そして、被告車が原告車と衝突後〈3〉から〈4〉まで押し出され、右後輪のシヤフトも折れ曲がつてしまつたほどの衝撃を受けていることや、原告とともに走行していた原告の友人が本件事故後原告車は時速一一〇か一二〇キロメートルぐらいで走行していたと述べていることも併せ考えれば、原告車は少なくとも時速一〇〇キロメートル程度で走行していたと認められる。

なお、原告は、被告原が停止していたという〈3〉の位置が停止位置としては不自然であるから、被告車は原告車と衝突したとき停止しておらず、転回のため走行中であつた旨主張する。

しかし、前記のとおり被告車が西行車線の中央線を跨るように〈2〉付近を走行したとすれば、〈3〉の停止位置が必ずしも不自然とはいえないものであるから、原告の右主張は理由がない。

2  以上によれば、本件事故は、原告が制限速度が時速五〇キロメートルであるところを少なくとも時速一〇〇キロメートル程度もの高速度で走行し、そのため原告車のハンドルを適切に操作して被告車を避けることができず、停止していた被告車に衝突してしまつたために生じたと認められ、原告の過失は相当に大きいといわざるを得ない。一方、被告原は、〈3〉で停止する前に後方を確認しているが、停止後約二秒で原告車が被告車に衝突していること等に照らし、この後方確認時に十分に確認していれば、原告車が走行してくることを発見できた可能性も否定できず、もし被告原がこのときに原告車を発見していれば、本件事故が避けられた可能性も否定はできないので、被告原が無過失であるとも認められない。

よつて、被告原の免責は認められないが、右のとおり原告の過失が相当大きいことから、七割の過失相殺を認める。

二  損害額

1  治療費 一一九万一九一四円

証拠(甲八の2、3、九の2、一〇の2、一二の1、2、一三)によれば、原告主張のとおり、原告は、本件事故による治療費として、症状固定前に一一三万二三一四円を要したことが認められる。

また、証拠(甲一一の1、2)によれば、原告は、症状固定後も症候性てんかん、頭部外傷後遺症等の症状に対する抗けいれん剤の投与、言語療法等の治療のため、前記のとおり山本第三病院に通院し、治療費として五万九六〇〇円を要したことが認められるから、この症状固定後の治療も必要な治療と認められる。

以上により、右症状固定前後の各治療費の合計額である一一九万一九一四円が本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

2  入院付添費 一六六万一五五五円

証拠(甲七の1ないし8、八の1、九の1、一〇の1)によれば、原告は、前記入院期間のうち、平成二年三月一七日から同年四月三〇日までの四五日間、同年五月一日から同年一二月二九日までの二四三日間、平成三年三月一三日から同月一五日までの三日間の二九一日間について付添いを要したことが認められ、そのうち平成二年三月一九日から同年五月二〇日までと平成三年三月一四日と同月一五日の六五日間は職業付添人による介護が行われ、その費用として六五万三五五五円を要したことが認められる。

また、弁論の全趣旨によれば、平成二年五月一八日から平成三年五月二二日まで、原告の近親者による介護が行われたことが認められるが、前記のとおり、このうち介護を要したと認められるのは、平成二年五月一八日から同年一二月二九日までと平成三年三月一三日から同月一五日までの二二九日間であり、前記のとおり、このうち平成二年五月一八日から同月二〇日まで並びに平成三年三月一四日及び同月一五日の五日間は職業付添人による介護が行われていたのであるから、二二九日間から五日間を除いた二二四日間につき、近親者付添費を認めることにする。

そして、近親者による入院付添費は、原告主張のとおり一日当たり四五〇〇円が相当と認められるから、その二二四日分の一〇〇万八〇〇〇円と前記職業付添費六五万三五五五円の合計額である一六六万一五五五円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

3  入院雑費 三八万七四〇〇円

前記のとおり原告の入院日数は二九八日間であり、入院雑費は原告主張のとおり一日当たり一三〇〇円が相当であるから、一三〇〇円の二九八日分である三八万七四〇〇円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

4  通院付添費 一四万七五〇〇円

前記のとおり、原告は症状固定までに山本第三病院に実日数にして五九日間通院したところ、証拠(甲三、四)によれば、山本第三病院に入院した当初みられた原告の右片麻痺は、同病院のリハビリテーシヨンの結果改善し、原告は、退院時には一人で歩けるようになつていたが、その後も、外傷性てんかん、痴呆、失語等の症状が続き、症状固定時に至つても知能程度は全IQ五六で、失語のため発語による意志疎通は不可能等と診断されたことが認められる。

また、弁論の全趣旨によれば、原告の山本第三病院への通院期間中、原告の近親者が原告に付き添つたことも認められる。

以上によれば、原告は、右通院期間中、一人で歩くことはできたものの、失語症や知能低下により他人との意志疎通は不可能であつたし、てんかん発作の危険もあるので、近親者による通院付添が必要であつたと認められる。

そして、一日当たりの通院付添費用は、原告主張のとおり二五〇〇円が相当であると認められるから、その五九日分である一四万七五〇〇円が本件事故と相当因果関係のある損害と認める。

5  逸失利益 五五〇二万六三七五円

証拠(甲三)によれば、原告は昭和四八年二月七日生れの男子で、本件事故当時満一七歳、症状固定時は満一八歳であつて、本件事故により一八歳から六七歳に至るまでの四九年間その労働能力の一〇〇パーセントを喪失したと認められる。

ところで、原告は、逸失利益の算定につき、平成六年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者全年齢平均賃金である年収五五七万二八〇〇円を基礎収入とすべきであると主張する。しかし、逸失利益の算定に関しては、将来得られる蓋然性のもつとも高い収入を基準として控えめに算定すべきであつて、本件では平成三年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者一八歳から一九歳の平均賃金である年収二三一万六九〇〇円を基礎収入とするのが相当である。

以上により、原告の逸失利益の本件事故時における現価を、ホフマン方式により中間利息を控除して算定すると、次のとおり五五〇二万六三七五円となる。

231万6900円×(24.702-0.952)=5502万6375円

6  傷害慰藉料 三〇〇万円

証拠(甲三、四、八の1、乙二)によれば、原告は入院中相当期間重度の意識障害が継続したと認められること及び前記原告の治療経過等に照らし、傷害慰藉料は、原告主張のとおり三〇〇万円が相当と認める。

7  後遺障害慰藉料 一八五〇万円

前記原告の後遺障害の程度等に照らし、後遺障害慰藉料は、原告主張のとおり一八五〇万円が相当と認める。

8  将来の介護費 一四七〇万一二五一円

前記のとおり、原告は精神障害、症候性てんかん等の後遺障害が認められるところ、証拠(甲三、原告法定代理人後見人本人)によれば、原告は、医師により、食物の摂取については食器・食物を選定すれば自力で可能、排便排尿については通常便器で自力で可能、衣服着脱・起居・歩行・入浴については通常身の回りの動作可能、精神障害(知能を含む)については障害が中程度で大部屋での監視介助が必要、運動麻痺についてはごく軽度の片麻痺あるも日常生活動作に及ぼす影響はほとんどないと診断されているものの、実際は、食物の摂取については、自分でしているが、時間がかかり、スプーン、箸などがうまく使い切れず、よく食物をこぼしてしまい、排便排尿については、自分でしているが、一人でさせるとトイレの周りに汚物をまき散らしてしまい、衣服着脱については、自分でしているが、ボタンを互い違いにはめたり、逆さまに着てしまうこともあり、入浴については、自分で前を洗うことはできるが、背中を自分で洗うことができず、日常会話については、失語のため会話はまつたくできないという状態であり、そのため原告の親族が自宅で原告を常に監視して身の回りの世話を行つていること等が認められる。

以上の事実を総合考慮すれば、原告の自宅における近親者の介護の必要性は認められるが、その額は一日当たり一五〇〇円が相当である。

そして、平成三年簡易生命表によれば、満一八歳男子の平均余命は五八年(年未満切捨)と認められるので、原告の将来の介護費は、一日当たり一五〇〇円として五八年間分を認める。

以上により、原告の将来の介護費をホフマン方式により中間利息を控除して算定すると、次のとおり一四七〇万一二五一円となる。

1500円×365×26.8516=1470万1251円

9  禁治産宣告費用 一〇万一五〇〇円

証拠(甲五、六)によれば、原告は、本件事故による精神障害のため、禁治産宣告を受け、その費用として一〇万一五〇〇円を要したことが認められるので、同額を本件事故による損害と認める。

10  過失相殺及び損益相殺

以上1から9までの合計額は、九四七一万七四九五円であるところ、前記のとおり七割の過失相殺をすべきであるから、右額から七割を控除すると、二八四一万五二四八円(円未満切捨)となり、前記のとおり、原告には自賠責保険より二三〇六万円が支払われているから、右額を控除すると、五三五万五二四八円となる。

11  弁護士費用 五三万円

本件事案の内容及び認容額等から、弁護士費用は五三万円が相当である。

三  結語

以上により、原告の被告原に対する請求は、五八八万五二四八円及び不法行為後の平成二年三月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告の被告保険会社に対する請求は、五八八万五二四八円及び原告が被告保険会社に対し調停を申し立てた日の翌日である平成四年三月一七日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(なお、被告らの原告に対する右各債務の関係は、重複する限度において不真正連帯債務の関係にある。)。

(裁判官 松本信弘 石原寿記 宇井竜夫)

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